Junji Nakamura Lab.

地球温暖化とは何か!
地球温暖化は、いま人類が直面する最大の課題です。2012年から2020年にかけて発表された査読付きの気候変動関連論文88,125報を分析した結果、99%以上が「温暖化は人為的原因によるもの」と結論づけていることが報告されています(Lynas et al., Environmental Research Letters, 16, 114005, 2021)。この結果は、科学的コンセンサスが「地球温暖化は人為的に引き起こされている」ことを明確に示しています。温暖化の主因は、二酸化炭素(CO₂)による温室効果であり、排出されるCO₂の80%以上は化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の燃焼によるものです。これらの燃料は主に炭素と水素(CHₓ)から構成されており、酸素と反応することでCO₂と水(H₂O)を生成し、同時にエネルギー(おおよそ800 kJ/mol)を放出します。したがって、電力供給、産業活動、輸送手段として化石燃料を使用すれば、それにほぼ比例した量のCO₂が排出されます。具体的には、使用した化石燃料の質量の約3倍に相当するCO₂が大気中、特に地表付近(高度約10km以内)に蓄積されていきます。このCO₂は赤外線を吸収し、まるでブランケットのように地球を覆って地表の熱を閉じ込めるため、気温の上昇を引き起こします。現在、地球の平均気温は上昇し続けていますが、世界全体のCO₂排出量には減少の兆しが見られていません。これは、地球規模での抜本的な対策が依然として不十分であることを意味しています。
人類の進むべき道:エネルギーキャリアの選択
地球温暖化はグローバルな課題であり、CO₂排出削減もまた地球規模で取り組むべき問題です。この点についての認識は広まりつつありますが、具体的にどのような技術やエネルギー体系を構築していくべきかという「将来の道筋」については、いまだ明確な合意がありません。今後の人類社会にとって最も重要な論点の一つは、「何をエネルギーキャリアとして選ぶか」という問題です。これまでのように、地下から掘り出す化石燃料は「実質的に無料」のエネルギー源として利用されてきました。しかし今後は、再生可能エネルギー由来の電力を用いて、コストとエネルギーをかけて人工的に燃料を製造していく必要があります。その際、重要となる要件は以下の通りです:i) 安全に取り扱えること、ii) 貯蔵と輸送が容易であること、iii) 途上国を含むあらゆる国で利用可能であること、iv)既存技術を使って即実行可能なことです。これらの条件を満たす候補として、私は、メタノールが最有力であると確信しています。というのも、私は30年以上にわたりメタノール合成の研究に携わってきた経験から、技術的、経済的、実用性の面でメタノールが他の候補に勝ると判断しているからです。
科学技術者としての使命
エネルギーキャリアの選択は、人類の未来を左右する極めて重要な議題です。科学技術者は、社会の中でその選択肢を白日の下にさらし、定量的かつ現実的な議論を進める責任があります。すでに時間は残されておらず、いわゆる「夢の技術」が温暖化を解決するという希望的観測に頼る余裕はありません。いま必要なのは、実用的で既存の技術を即座に投入し、現実に即した対策を講じることです。私は、2026年1月にSpringer Natureから出版予定の“Blueprint for a Methanol Society: Toward Carbon-Neutrality” という書籍を通じて、メタノール社会の実現に向けた具体的な提案を行っています。今後もこの活動を継続し、科学と技術を通じて地球温暖化対策に貢献していく所存です。